変わり続ける会社で、変わらず氷を守る人
製造現場の一番奥で、24年ものあいだ氷と向き合ってきた男がいる。純氷製造部長・佐々木豪さん。この会社の氷づくりを、誰よりも長く、誰よりも近くで支えてきた人物だ。
「賞なんて、いらないので」
かつて社内で、その年に最も活躍した社員へ贈られる賞を、佐々木さんが受け取ったことがある。誰よりも身を粉にして働いた一年の、その証だった。ところが壇上に立った佐々木さんの口から出たのは、感謝でも喜びでもなかった。
賞なんていらないから、そのぶん社員みんなに休みをあげてほしい
自分の功績として受け取るより、仲間の休みを選ぶ。その一言は、当時の社長を動かした。そこから、働き方や社内の体制を見直す流れが生まれていく。いまの小野田商店の土台には、この佐々木さんの率直な声がある。
もっとも、本人にそんな自負はない。振り返ってもらっても、当たり前のことを言っただけ、という顔をする。その飾らなさが、かえって24年という歳月の重さを物語っていた。

その氷の先には、待っている人がいる
佐々木さんが小野田商店に入ったのは、20歳のとき。氷が好きだったわけではない。成人したし身を固めたいという、ごく現実的な理由での転職だった。正直、辞めようと思ったことは何度もあったと明かす。それでも辞めなかったのは、一年やそこらで投げ出すのが、自分の性に合わなかったからだ。
つまらない、きついで辞めるのは嫌いなんです。全部できるようになってから辞めよう、と思っていました
極めてから辞めるつもりが、極め続けているうちに24年が経っていた。いまでは製造部を束ね、日々の氷づくりを担う要となっている。
そんな佐々木さんには、大切にしている一つの光景がある。氷を待つ仲卸業者がいて、その先に飲食店があり、さらにその先に、氷の入ったグラスで笑う誰かがいる。氷は主役にはなれない。それでも、子どもたちの笑顔があふれる場所に、ちゃんと届いていく。その一杯のために、今日も切らさず、いつもの小野田商店の氷を作る。
そして佐々木さんの目は、氷の届く先だけでなく、それを作る現場の仲間にも向けられている。
まずは自分たちが笑顔でないと、人に笑顔を届けることはできないですよね
誰かを笑顔にする氷は、笑顔の現場からしか生まれない。だから佐々木さんは、その思いを胸にしまっておかない。「自分たちは、何のためにここに来ているのか。それをちゃんと考えてほしいんです」。厳しく聞こえるかもしれない。けれど、その問いの先にあるのは、いつも同じ景色だ。
その姿勢は、正社員か派遣かといった立場を問わず、同じだ。同じ氷を、同じ思いで届けたいから、誰に対しても分け隔てなく本音で向き合う。佐々木さんが束ねる現場には、そうして自然と生まれた一体感がある。
24年、守り続けてきたもの
賞よりも、仲間の休みを選ぶ人。そして、その氷の先にいる誰かの笑顔を、いつも思い描いている人。会社が新しい商品や事業へと変わっていくなかでも、佐々木さんが守り続けてきたものは、ずっと変わらない。切らさず、いつもの小野田商店の氷を届ける。ただ、それだけだ。
ものづくりの現場で、誠実に、長く働きたい。そう考える人にとって、佐々木さんの隣は、きっと得がたい場所になる。







