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雪国というイメージ


本日(2月10日)は東京でも大雪が予報されていますね…。

東京のような首都圏エリアで大雪が降ると、雪国のように日頃から豪雪に対する対策を行っているわけではないということもあり、インフラの停止や公共交通機関の遅れなど、大変な影響を及ぼすことがあります。

ところで皆様は雪国という言葉から、どんな情景を想像するでしょうか?

北海道、東北、甲信越などのエリアを想像する人が多いかもしれませんが、実は一言で雪国といっても、同じ寒冷地であっても地域ごとに大きな気候の差があります。

そして、筆者の故郷長野県は、冬は「凍(し)みる」地域 だと言われています。

凍みるとは、長野県方言で「凍りつく」あるいは「気温が下がる」という意味であり、長野県の冬をよく表しています。

実は長野県で降雪が極端な豪雪地帯は、日本海に近い白馬村などの県北端エリアや、北アルプスの山岳地帯だけであり、長野県全体の降雪量は あくまで平均して全国6位ほどです。その降雪量もほとんどは新潟県境の長野県北部と一部の山岳高地のものです。一方で諏訪地域など長野県中南部ではほとんど雪は降りません。

長野県中部にある諏訪湖。冬季は凍りつき、

時折湖面を横断するように氷が割れる現象「御神渡り」が起きる。

一方で寒さに関しては本物で、 2014年の平均最低気温ランキングでは北海道、岩手に次ぐ堂々の三位です。従って長野県では雪が積もりすぎることはそこまでないのですが、一度降った雪がいつまでも溶けることなく凍結して道路面が滑り、またそれらを溶かすためにお湯などを迂闊に撒いてしまうと、さらにそれが凍りついて道路がますます滑るという悪循環に突入するのが長野県のあるあるです。

本当に雪が積もるのは日本海沿岸


本州で雪が多く降るのはだいたい日本海沿岸の地域です。

これは 「冬型の気圧配置」と「脊梁山脈(せきりょうさんみゃく)」が関係しています。

まず、冬季になるとユーラシア大陸側から、冷えた空気が高気圧として日本列島へ流れ込み、日本上空では西側が高気圧、東側が低気圧が天気図上で見られるようになります。これが俗に言う「西高東低」です。この気圧配置になると日本海上に筋雲が生じ、日本海沿岸の新潟などの地域に豪雪を降らせます。

以外と少ない長野県県の豪雪地帯

豪雪地帯の地域指定状況-豪雪地帯の指定地図 長野県-より引用)

また、 日本本州にはフォッサマグナ地域(西日本と東日本の境目)を横切って本州を縦断する山脈がそそり立っています。このように分水嶺となる山脈のことを「脊梁山脈」と呼びます。日本海側で発生する水分を多く含む雲が脊梁山脈にぶつかって通過できないと、これ以降の太平洋側は天気が良い傾向となります。

脊梁山脈を構成する、東北地方の奥羽山脈、関東地方と北陸地方の境をまたぐ越後山脈、中部地方の日本アルプスなどは高山地域として知られ、これらはおおむね東北、北陸に集中しています。

これが、東北、北陸地域=雪国というイメージの原因となります。

ユーラシア大陸から冷たい季節風が日本に入ってくると、その空気よりは温度が高い日本海からの、水蒸気の流れが発生してこれが雪雲になります。この雪雲がさらに季節風に乗り日本列島沿岸部へ到達すると、脊梁山脈でさらに大きな雪雲に成長し、これが日本海側の地域に大量の雪を積もらせます。

田舎流レーション「凍み氷」


さて長野県ではこの「積雪はそこまででないが、大変冷える」という、気候的特徴を活かした「凍み氷」という郷土食があります。

「凍み氷」という、何というか頭痛が痛くなりそうなネーミングの郷土食は、またの名を凍み餅、氷餅とも呼び、その正体はもちろん氷をさらに凍らせたようなものでは断じてなく、いわば「天然のフリーズドライおもち」とでもいうべきものです。

古くはクズ米(精米中に砕けた米や、未成熟な死米)とゴボウ粉を混ぜてこねたもの、今では普通のお餅を材料にしています。

まず材料の餅を水に浸け、その後野ざらしにして凍りつかせたものを縄などで縛って吊るし、昼と夜で凍結と融解を1ヶ月程度繰り返すことで乾燥させることにより、フリーズドライのような状態に仕上がります。このような作業を「寒ざらし」と呼びます。最近はほとんど見なくなりましたが、軒下に吊るされた餅が並ぶ光景はかつての冬の風物詩でした。

・「寒ざらし」される餅たち(引用:安曇野市観光協会)

凍み氷の食べ方としては、あまり美味しくはないですがそのまま食べるのは勿論、器に砂糖と共に砕き入れ、お湯をかけると甘い粥のようなものとなります。保存性、携帯性共に高く、古くから農作業の合間に食べられたり、冬場の非常食として重宝しました。ちなみに筆者おすすめの食べ方は、軽く煮立てて柔らかくしてから油で揚げて砂糖醤油をかけて食べる調理法です。香ばしい風味と独特の食感が魅力的です。サクサクでもなく、モチモチでもなくクシュクシュ(?)とした食感といった感想です。

かつて経済、物流が充分に発達していなかった時代の長野県では、冬場の食糧確保は正にサバイバル。そんな厳しい環境のなかでこそ知恵を働かせて生まれた、まさに「田舎流レーション」といえる郷土食です。

首都圏の大雪にはくれぐれも気を付けて!


大雪は様々な形で影響を及ぼしますが、特に最も気をつけなくてはならないことは転倒です。

屋根の上に雪等が積もれば、雪下ろしなどのために不安定な高所へ上ることもあるかもしれませんが、毎年豪雪地帯ではこれにより何人もの方が命を落としています。ある程度雪に対して慣れている雪国の人々ですら危険であり、あまり雪の降らない地域の方々が雪下ろしを行うのはさらにリスクが伴います。

止むを得ないケースもあるとは思いますが、まず命を守る行動を。

また、玄関前などに雪が積もるとたまに「お湯をかけて」雪を融かそうと試みる方もいらっしゃいますが、これは最もNGな除雪方法といっても過言ではありません。

なぜなら、お湯によって溶かされた雪と、かけられたお湯がすぐに凍り付きます(ムペンバ効果といって、お湯は水よりも早く凍ります)。結果、 雪よりもさらに硬く摩擦の少ない氷となり、路面凍結の原因になります。

路面凍結は車道なら勿論、交通事故の原因に、歩道でも転倒による頭部打撲などで死に至ることがあります。

理想を言えば塩化カルシウムの散布ですが、できればスコップなどによる物理的除去がおすすめです。

普段雪が降らない地域の方も 雪国の方も、大雪のときは油断せずどうかご安全に!