少し変わった「郡(こおり)」という地名
千葉県君津市には「郡(こおり)」という地名があります。
地名で郡というと、「○○郡(ぐん)」といった行政区画のうち、市や区に属さない複数の地域をまとめたものを指す場合が多いですが、ここは「千葉県君津市郡」といういささかややこしい地名となります。
この地域はかつて「氷」とも表記され、戦国時代は「氷郷」とも呼ばれていたそうです。
これは律令時代(7~10世紀の地方統治制度である律令制が敷かれていた時代)に郡家(ぐんが)が置かれたことに由来するそうです。
郡家とは、当時の地方統治における役所のことで、このような群家がかつて置かれた土地はいくつもありますが、その後も「郡」の名で地名が残っていて、なおかつ「こおり」と読まれる場所は非常に珍しいです。
県道、絹・郡線から望む郡の光景
さて、先日筆者はたまたまこの近くまで寄ったので、ぜひ氷屋として「群(こおり)」に何があるか調べてみました!
のどかな景色が広がる郡(こおり)
郡が位置する君津市は東京湾に面し、丁度海を挟んで対岸は、空母などの軍艦が多く停泊する横須賀市となります。
君津市には八幡製鉄所の移転地である日本製鉄の工場が存在し、その面積は東京ドーム約220個分に及ぶ広大なものです。
君津市のお隣、木更津市江川海岸から望む君津の製鉄所
施設は海に張り出した土地の上に位置し、そこは立ち入り禁止となっており周辺も緑地などで遮られているため、あまり工業地帯といった印象はなく、むしろ観光地として有名なマザー牧場の近くでもあり、どことなくのどかで牧歌的な光景が広がっています。
郡北部は閑静な住宅地になっていますが、南部は水田と山林が広がっており、東京湾に面した地域であることを忘れるような光景が広がっています。
マイナーながらも超重要!「郡ダム」
郡ダム記念日とダム湖の光景
郡南部には「郡ダム」という、ダムマニアにもあまり知られていないダムがあります。
ダムと聞いてイメージするような、コンクリートの巨壁のようなものは見られず、山道の中に突然とダム湖が現れるような、一見地味ともいえるダムですが、実はこのダム、非常に重要な役割をもっています。
それは数ある工業地域の中でも金属、化学工業の割合が非常に高いことでも知られる京葉工業地域の一端を支える、重要な工業用水ダムであるということです。
上空から見た京葉工業地域
京葉工業地域と夜景
京葉工業地域では、生産される製品はマテリアル系が多いため、機械産業や建築産業、その他諸々の産業に繋がる非常に重要な役割を担っています。
中でも君津市は大きな製鉄所を抱えていますが、製鉄所では莫大な量の水を消費し、大きな製鉄所では東京23区とほぼ同じという莫大な量(約3千8百万立方メートル)の水を必要とします。
こうした京葉工業地域の高い工業用水への需要を満たすために、郡ダムは昭和47年(1972)から千葉県営の工業用水道ダムとして建設されました。
夕暮れ時の郡ダム全景
実はこの郡ダムの水は、近くの郡川から引いてきたものではありません。
約10㎞も南に離れた富津市湊川から管を通して送られてきた水が貯められており、夏季など水不足のときに工業用水として利用されます。
ダムの南側の岸には水上スキーも置かれていた。
ダムでは遊泳や釣りが禁止されているが、水上スキーによる湖面活用が検討されている。
また、このダムは工業に役立っているだけでなく、ダム湖周辺には林道、遊歩道も整備されており、地域の人々の憩いの場にもなっています。
水は我々製氷メーカーからしても命であり、もちろん工業用水は氷の製造には利用できませんが、製造に使う機械やその他設備にも水は必要であり、それらの品質は機械の寿命などに大きく影響します。
君津市の清澄山・三石山系の地下水は、平成の名水百選「生きた水・久留里」にも選ばれ、湧水を活かした植物の栽培も盛んです。
この恵まれた環境と、郡の工業用水ダムが日本の産業を支えているのです。