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ご家庭で作った氷がなぜか臭う?


皆様はご家庭で作った氷がなぜか独特の臭いがする、といったことを思ったことはないでしょうか?飲食店の製氷機でも適切な管理を怠ってしまうとこの状態になってしまうことがあるようですが、この原因は、大きく分けて二つ存在します。

まず、一つは冷蔵庫に保存している食品の臭いやカビの臭いなど、周辺環境の臭いを氷が取り込んでしまうこと。

もう一つは、原料として使っている水道水に 塩素やミネラルなどの不純物が含まれており、それが雑味の原因になることです。

では、できるだけ雑味を含まない美味しい氷を造るにはどうすればよいのでしょうか?

本コラムではその原因を詳しく解説し、ご家庭でも美味しい氷を造る方法を紹介します!

氷に臭いが付く原因Ⅰ・周辺環境


・綺麗に掃除された製氷皿を使っても、凍結時に周囲の臭いを取り込んでしまう。

ご家庭で造った氷に臭いが付く二つの原因として、一番大きな要因となっているのが製氷皿の内蔵されている冷蔵庫そのものの臭いです。

多くの一般家庭において、残り物の食材など完全には気密性の保たれていないものを、色々と冷蔵庫に入れていると混ざった臭いが庫内に充満してしまうため、それに対して消臭剤をおくなどの対策を行っていると思います。

そして氷はもちろん元は水ですので、 水は溶媒として非常に優れていて、色々な成分を吸着してしまうので、庫内の臭いが原料水に移ってしまいます。

また低温である冷蔵庫も、意外なことにカビにとって絶好の環境です。

カビ(真菌)には0~50℃までの範囲で生存可能な種が多く、湿度さえ60%以上を保たれていれば、他の生物からは過酷である環境下でも力強く生き延びますので、野菜室の野菜の呼吸などから出る水分や、結露だけで生存可能です。

中でも、樫の木の落葉に発生するファキディウム(Phacidium) という属の真菌では、-21℃の環境下でも僅かに繁殖を続けることが確認されています。

冷蔵庫内は気温、湿度が一定に保たれているため、それらの急激な変化のある外界に比べれば、少し寒くてもカビには楽園なのです。例え冷蔵庫の中に栄養になるような食品がなかったとしても、水さえあれば繊維カスやパッキンの樹脂すら分解して繁殖します。

あらゆるものを侵食、分解するカビの能力は、生態系の循環に欠かせず、お酒から抗生物質まで我々に提供してくれますが、一度生活環境にはびこってしまうと簡単には排除できず恐ろしい限りです。

特に、 冷蔵庫の中でも製氷機はカビが発生しやすいとされていて、冷蔵庫の吸い込み口にカビがあると水分の供給が多い製氷機に留まることが多いようです。

このことから、ご家庭の冷蔵庫で作る氷がカビ臭いといったようなことが起きます。

よって定期的な冷蔵庫の清掃が推奨されますが、そのためには計画的に食材を減らしていかなくてはならなかったりと、なかなかハードルも高いのも事実です。

しかし、一方で冷蔵庫に入れておいておいたものが原因で食中毒を起こすケースは、ほとんどが元々その食材に含まれていた微生物の増殖によるものであり、冷蔵庫そのものが不衛生であったため食中毒を起こしたというケースはあまり聞きません。

そしてご家庭で作った氷が原因で食中毒になったという話もなく、臭いや気分的な問題を除けば、リスクはさして大きなものではなく、過度に冷蔵庫の衛生性を心配しすぎる必要はないかもしれません。

ですが、あまり保健所が介入しにくい縁日の露店などの販売型式では、かき氷に含まれていた菌を原因とする食中毒もあったようであり、常識的な衛生管理を怠ると、氷だから安全とは言えないのも事実のようです。

氷に臭いが付く原因Ⅱ・原料水


・水道水のカルキ臭の原因は、塩素とフェノールが結びついてできる「クロロフェノール」の存在が大きい。

氷に臭いが付く、もう一つの要因として挙げられるのが、原料水自体にある臭いです。

水道水の臭いは、水の衛生性を保つために添加されるカルキに由来し、このカルキとは正式名称を次亜塩素酸カルシウム【Ca(ClO)2】、さらし粉ともよばれます。

カルキ抜きをした水がすぐに傷んでしまうことからもわかるように、その殺菌効果は大きいです。

しかし、やはりその臭いが気になる人も多いのは事実で、東京都で行われたアンケート調査では実に約70%の人々が水質のカルキ臭に対して不満を持っているという結果が出ています。

(以下リンク先参照…第9回東京都水道事業運営戦略検討会議

また、人々がカルキの臭いと感じる原因物質は、実際にカルキを指す次亜塩素酸カルシウムとは別の物質である、クロロフィノール(C₆H₅ClO)であることが多いです。

クロロフェノールは、水道水に含まれる微量の不純物であるフェノール(C6H5OH)とカルキが反応してできるもので、その中でも2,6-ジクロロフェノール(C6H3Cl2OH)は、臭いを感じられる濃度のしきい値が0.1ppb(1トンの水のうち0.001グラム入っているほどの濃度)程度とされています。

これは本当に極微量なので、到底安全に問題のない濃度でも、不純物の混入を微粒子レベルでゼロにするか、カルキを全く入れない限りはカルキ臭が発生してしまうのです。

しかし、水道水への添加剤をゼロにするということは、すなわちボトリングもされていない生水を直接水道管へ流すということなので、地下にある管を何らかの手段で、しかも水を止めて頻繁に清掃しないかぎり微生物が発生してしまい、とても煮沸しなければ飲めないものになってしまいます。

ならばフェノール の混入を徹底的に防いでからカルキを入れろ、という意見もありそうですが、そのためには相当な設備を導入、維持していく必要があるので水道代の爆上げを覚悟しなくてはなりません。

なので、水道水がカルキ臭いのは、そのまま飲める安全性と、誰でも払えるくらいの水道代とのトレードオフなのです。

また、水道水にも含まれるミネラル成分ですが、ミネラルは人体に必要なものなので、良い面として認識されることが多い反面、ミネラルを多く含んだ氷は裏を返せばそれだけ多くの不純物を含んでいるという意味でもあるので、氷にする際にはすなわち雑味や白濁の原因となります。

日本の水道水はミネラルをあまり含まない「軟水」で、軟水か硬水かはミネラルの量を示す硬度120(mg/L) より上のものを硬水、それ以下のものを軟水としますが、全国平均は61(mg/L)、関東の方ではやや高めで、千葉、埼玉、茨城は硬度81以上となっています。(参照…あなたの水道水、「硬さ」調べました~日本全国水道水の硬度分布~東京大学大学院総合文化研究科・教養学部

臭いのない、美味しい氷の作り方


では、これらの原因を避けて美味しい氷をご家庭で作る方法にはどんなものがあるのでしょうか?

臭いを取り除く方法は二つあり、一つは臭いを中和する他のマスキング物質(臭いを上塗り、中和する物質)でマスキングしてしまうこと、もう一つは臭いの原因をできる限り原料水に吸収させないことです。

まずマスキング物質でおすすめなのが、調味料として販売されているボトル入りレモン果汁です。レモン果汁には残留塩素を分解してくれる作用があり、1~2滴加えるだけでおおむね充分な効果を発揮します。あくまで氷を食品の冷却用や、甘味の強いジュースなどに使うだけなら、この対策だけで十分でしょう。

飲食店でよくみられる、ウォーターピッチャーの中のレモンは水のカルキ臭を消す知恵です。

しかし、コーヒーやお酒などに使う氷にはこだわりがある、限りなく徹底的に臭いを抑えた氷を作りたい、という方には、もっと抜本的な対策として、専用の製氷機を購入して、それを用いて軟水のミネラルウォーターを使って製氷する方法こそが最もベストです。

冷蔵庫に備え付けの製氷皿を使うという手段もありますが、冷蔵庫は清掃を定期的かつ丁寧にしたとしても、やはり保存している食品の臭い移りは避けられないものがあるでしょう。

保存している食品の包装をラップやパウチなどで、できるだけ気密性を高め臭いが漏れるを防ぐことである程度予防できますが、完全にこれを避けたいのであればやはり専用の製氷機を買うのがベストでしょう。

近年の家庭用製氷機は進歩しており、かなり高速で氷を作ることも可能な上、価格も家電としては比較的リーズナブルなので、氷を頻繁に使う方は買って損はないでしょう。

また純氷には及ばなくとも、透明度がなかなか高い氷が作れるものもあります。

これにミネラルウォーターを使うことで、ご家庭でも限りなく臭いを抑えた氷が作れるはずです。少しでも雑味を抑えるためには、硬水よりもできるだけ硬度の低い軟水を使うのがおすすめです。

しかし、上記の方法には大きなデメリットもあります。それはカルキ抜きした水やミネラルウォーターを使って作られた氷は、 傷みやすく長期保存に向かないことです。

「氷が痛むことなんてあるのか?」と疑問の声も聞こえてきそうですが、 氷を構成する水自体に微生物の好む栄養が含まれていなくても、不純物が含まれていればそれが腐ることがあるので、そうなったときはカルキ入りの水道水よりも、圧倒的にミネラルウォーターの方が雑菌の繫殖リスクが高いです。

それを避けるためには、必要なときに必要な分だけの氷を作ることが大切です。

また、製氷機の吸水タンクなどの清掃を怠ると雑菌が繫殖がありますが、頻繫に清掃するとなると必然的に氷の消費も早くなります。

また近年は、熱伝導率を利用したステンレス製の、あるいはポリエチレンの中に蒸留水を入れて凍らせた「アイスキューブ」と呼ばれる氷の代用品も登場しており、氷が融けて飲料などを薄めることがないというメリットもありますが、やはり本物の氷と比べると冷やす力が弱く、あくまで保冷程度です。

また後者のポリエチレン製のものに関しては、これは表面に微小な凹凸があるため冷蔵庫の臭いを吸着してしまいますので、臭いを気にするならばステンレス製をおすすめします。

氷を買うのも意外とコスパ悪くないかも?


意外と臭いがしない氷をご家庭で作るのはハードルが高いものです。それなりに気合いを入れて作ろうとすればご家庭でも、なかなかの氷を作ることができますが、凝れば凝るほど、諸々やらなければならないことや用意しなければならないものも増えます。

簡単に品質の高い氷を入手したいのならば、包装されていて扱いやすく、衛生性が十分に担保されている市販の氷を購入することは、総合的にみれば「氷なんて家でも作れるじゃないか」と自分で氷を作るよりも、諸々を考慮すればコスパは悪くないと言えそうです。