• 投稿者:
  • 投稿カテゴリー:コラム

バーテンダーと氷屋


「【現代の名工バーテンダー 岸久氏が語る】バーのお酒はなぜ美味しいのか?」

動画提供:東京アイスアカデミー

製氷メーカーにとってバーテンダーの方々は、氷が生活必需品だった時代から自動製氷機による短時間での氷の大量生産が一般的になった現代においても、常に大事なパートナーです。

単に酒を飲む場としてではなく、カクテルの見た目の美しさからその完成に至る過程までの全てを楽しむバーという場においては、透明度が高く、すぐに酒を薄めてしまわないようにゆっくりと溶ける純氷を非常に重宝して頂いています。

今回のコラムでは、バーテンダーの方々にどのように純氷を活用して頂いているか、 その様子とテクニックの一部をご紹介します。

氷を削くペティナイフ


ナイフで氷を切断する、と書くとそんなことが容易にできるのか?と疑問を持たれるかもしれません。

しかし、氷は多結晶体の集まりであり、その結晶の境目(結晶粒界)、つまり氷の「目」に対して適切な角度で刃を入れれば、驚くほど簡単にサクサクと氷を削くことができます。

・ペティナイフで氷を切断する様子。削られた氷は雪のように滑らかになる。

とは言え、氷を簡単に切断するようになるには氷の目に対してどう刃を添えて働きかけるかなど、長年に渡る鍛錬とセンスが必要になります。また氷を削るときには素手で作業する方が多いですがこれも氷を素早く、なおかつ美しくカットするためには手に伝わる感触が重要となるからです。

氷の「トロ」


また、バーテンダーの方々のテクニックは勿論ですが、使用する氷も重要です。

硬く透明かつ、単結晶が大きく氷の目がはっきりと確認できる純氷を使うことは勿論、アイス缶製法で造られた純氷の柱の中でも、結晶の方向がより一定な真ん中の部分、通称「氷のトロ」と呼ばれている部分を使うことで初めてここまで滑らかに氷を切ることができるようになるのです。

氷のトロ

「氷の温度」を整える


実は冷たい氷も、一様に同じ温度ではありません。バーにおいてはこの「氷の温度」を適切に管理することが美味しく、見た目も美しい一杯を提供する上で重要です。

「氷の温度」とは、冷凍庫より出した時の温度を、仮にマイナス10℃だとしますと、始めは氷全体がマイナス10℃ですが、時間が経つにつれ表面から中心に向かって徐々に温度が上がり、最終的に氷全体が0℃になってから溶け始めます。

そのため、冷凍庫から出してすぐの霜が付いた氷は、お酒を注ぐと一気に霜が溶け、一瞬で氷が薄まってしまうため、表面の霜が溶けて緩んでから使用するのがコツとされています。

氷を切り出したら、熱伝導率の低い木製のザルや桶にいれてストック。

勿論、氷は迂闊に放っておけばどんどん溶けていってしまうので、氷の温度が0℃以上にならないように見極めロスの出ないよう素早く作業を行ない、かつ丁寧に美しくカットを行うことが必要です。

・お酒に入れる氷は、霜のない適度に緩んだものが味を薄めず、見た目にも美しい。

※「【現代の名工バーテンダー 岸久氏が語る】バーのお酒はなぜ美味しいのか?」東京アイスアカデミーより抜粋

また、経験則として氷の温度に対してマイナス9℃以上(マイナス12℃以上だと確実に)急激な温度変化を与えてしまうと氷に「ビリ(ひび割れ)」が入ってしまうので、マイナス9℃より低い温度で保管しておくと安全に氷を扱うことができます。しかし、冷たい氷を長時間グラスの中でキープするため、バーテンダーさんの中には単に氷を緩ませるだけでなく「氷に膜を作る」作業を行います。

氷に膜を作る


通常、氷は同じ重さの水を凍らせた場合、表面積が同じであればどんな凍らせ方をしても融ける速度は同じとされますが、表面積が少なければ少ないほど氷は融ける速度が遅くなるので、できるだけ氷の表面を滑らかにして、目には見えないほどの小さな断面も取り除き、無数の断面でボコボコとした状態から、表面がツルツルした氷にすることが氷を長持ちさせるコツとなります。

氷の実験

・「膜」を作った氷

氷の膜とは、氷の表面を融かした水が、氷の表面に付き冷凍庫で再度凍ったものです。つまり「膜を作る」とは氷の表面を滑らかにすることで、表面積を小さくするテクニックです。

具体的な方法としては、 氷をステンレスの網などに擦りつけ氷の角を取るようにしながら水で洗い、冷凍庫で再度凍結させます。またさらに時間をあけて、再度この作業を繰り返して冷凍庫で保管します。実際に、膜を作った氷はグラスの中での融け方が遅くなるそうです。

バーテンダーの方々が経験と試行錯誤の中から発見したとっておきの技です。


参考及び出典:東京アイスアカデミー…tokyo-ice-academy.com

:純氷ガイドブック…全国氷雪販売生活衛生同業組合連合会 編.プレジデント社