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とちぎ花センターの「タビビトノキ」が旅立っていきました…


2022年9月12日、栃木県の植物園「とちぎ花センター」の、高さ20mものタビビトノキが伐採されることになりました。

開園当初の30年前から、大温室「とちはなちゃんドーム」の真ん中にあるシンボルツリーでしたが、傾きが大きくなり、紐で支えてきたものの、倒木の危険が増したため、断腸の思いで切り倒すことになったそうです。

とちぎ花センターにて、タビビトノキの伐採を伝える告知

園内の温室に残された、タビビトノキの切り株

園では伐採したタビビトノキの大きな葉を、希望者に配布しました。

そこで、透明度の高い氷を作る技術を使って、小野田商店で作成している「氷華®」にこの葉をできないものかと試してみました。


氷華®は小野田商店が得意とする、透明度が高く融けにくい氷を活かした花氷のブランドです。


花氷とは氷の中に、主に花などのを入れものをして凍らせた、日本で明治時代から愛される、歴史あるイベント、パーティー用のデコレーションです。

普段は凍らせても見た目の変化などが起きにくいこと、気泡が生じにくいことなどを理由に氷華®には造花を用いているのですが、特注品などでは本物の植物を用いることもあります。

ウツボカズラを封入した氷華®

とちぎ花センターで頂いたタビビトノキの葉は、柄の部分も含めると、3mに及ぶ巨大さで、到底そのままの状態で運ぶことができず、柄の部分を切断したうえで、半分のサイズにカットして運びました。

二人掛けのベンチに置いても、柄を取り外し、半分のサイズにカットしたにもかかわらず、ギリギリ上に乗り切るほどです。

運ぶためにややコンパクトにしたタビビトノキの葉

コンパクトにする前のタビビトノキの葉は、とても一枚の葉とは思えないほどの迫力あるサイズで、そのまま傘などに使えそうです。

これをうちわにして誰かに扇いで貰えば、まさに王様気分といったところなのではないでしょうか…?

赤線の葉本体の部分だけで1m50㎝以上、人の背丈ほどあります。

そもそもタビビトノキってどんな植物?


「タビビトノキ」…非常に情緒的で良いネーミングなのではないでしょうか?

個人的にはリュウグウノツカイやゲッカビジンに匹敵する美しい種名なのではないかと思います。

ではなぜ「タビビトノキ」という名前が付いたのか?

これには諸説あるのですが、葉の柄の部分に雨水を溜めるため、乾燥地帯では旅人の飲み水として使われていたから、

あるいは大きく成長すると、葉を東西方向へ扇状に広げて生やすことから旅人にとってコンパスのような役割を果たしたからとも言われています。


…しかし実際には、水辺に生えているものでなければ、葉の柄を切断しても水はあまり出てこないそうです…水辺に生えているならあまり旅人の役に立つことは無さそうですが、それでも生水を飲むよりは安全なんでしょうか?


また、東西方向に必ず葉を広げるといったことも実際にはないそうです。

陽射しを浴びるための最適な葉の広げ方をした結果、東西方向に葉を伸ばしていたということは起こりえるのでしょうが、必ずしもそうなるとは限らないようです。

どうもこれらのタビビトノキ(traveller's tree)の名前の由来となっているエピソードは、この植物が持つエキゾチックなイメージに先行して付いた俗説のようです。

19世紀のウィンターガーデン(温室)ブームなど、まだ現地でのタビビトノキの様子を知らない人々が多かった時代に、キャッチーな売り文句としてそういった逸話を付け足したとか、そんなところなのではないでしょうか?

平均的な樹高は7mほどなので20mにも達する、とちぎ花センターのタビビトノキはやはりかなり巨大に成長していると言えます。

とちぎ花センターに残されたタビビトノキも相当の大きさである

近くで見ると、改めてその巨大な葉の迫力に圧倒される

実はこのタビビトノキ、鮮やかなコバルトブルーの種を付けるというかなり変わった特徴もあります。(これは本当です)

この美しい種は、共生関係にあるラッフルキツネザルの色覚に訴えかける色で、種をキツネザルに拡散してもらう役割があるそうです。

映えるものが拡散されるのは植物の世界もSNSも変わらないようです。

タビビトノキの種、もちろん着色ではない

やはり葉よりもこっちのほうが氷華®にするのに最適かもしれない

その美しい青さから、生息地では土産物として売られています。

インテリアとして飾る用に人気があり、風水的には「無駄遣いを防ぎ金運を上げる」という効果があるそうですが、この種は大きなタビビトノキしか付けず、またそんなに高頻度で種を付けるわけでもないようです。

なので、結構値段が張るため、旅行先でうっかり買ってきて、逆に「無駄使いするな!」と家族から怒られたりしないように気をつけましょう。


ちなみにタビビトノキの花は小さく目立たないものの、その蜜は前述したラッフルキツネザルの好物であり、花の大きさや構造と蜜の多さ、キツネザルの好みや口周りの構造などを考え合わせると、キツネザルに対応する形で花を変化させたようです。

昆虫にアピールする必要がないため、地味な花で良いということですね。


コバルトブルーの映える種とは反対に、こちらはさながらお得意様だけをターゲットにした、看板の目立たない一見様お断りの店、といったところでしょうか?


ちなみにその花言葉は「何ものも怖れぬ精神」、まさに冒険者に相応しい資質です。カッコいいですね。

いざ世界最大級の葉を氷漬けに!…してみようとはしたが…


池袋氷華スタジオの前に置かれたタビビトノキの葉

とちぎ花センターのタビビトノキが池袋の氷華スタジオに運ばれました。

さて、いざ氷漬けにしてみようと様々にカットなどしてみたのですが…

やはり大きすぎます!


なにせ元は3mの葉、どうカットしても葉の全体像を作品としてうまく落とし込むことができません。

本当はもう少し試行錯誤して、なんとか葉の迫力が伝わる形で氷華®に仕立てたかったのですが、生産スケジュールの都合上、時間とスペース両方のリソースを大きく割いてしまうことから今回は断念とさせていただきました。


小野田商店で作製している氷華®の最大サイズは複数個のものを組み合わせた作品を除けば、作成できる最大サイズは30×50×100㎝です。

依頼された特注氷華の作成には全力で実現を目指しますが、氷の中に入れられるものには一応限界がある場合があることも、ご理解の程、宜しくお願い致します。

とちぎ花センターの皆様、このような素晴らしいチャレンジの機会を提供して頂きありがとうございます!

※当コラムは、公式noteに2022年9月22日投稿した記事です。